【経営体験発表】盛和塾関西地区塾長例会での発表
 
私が、平成16年2月26日(木) 大津プリンスホテルで行なわれました【盛和塾 関西地区塾長例会】におきまして、経営体験発表を行なった時の内容です。
【盛和塾】は京セラの名誉会長である稲盛和夫氏を師と仰ぐ全国三千余名の会です。私は【盛和塾滋賀】に属し、約70名のメンバーと共に稲盛哲学を経営に活かすべく学んでおりますが、この度『経営体験発表』という栄誉を与えられました。
25分という短い時間でしたので、言い尽くせず、言葉足らずも多いのですが、塾長への感謝と全国で一緒に学ぶ同士の為に、ホームページに掲載する事にしました。ご批判を頂戴できれば幸甚です。

≪読んで欲しい人≫
☆ 盛和塾のメンバー(特に若い塾生)
☆ 若手旅館経営者
☆ 経営に意欲を持って取り組んでいる方



盛和塾塾長
 

昭和44年、私が大学1年の夏休のある日の事です。母と姉と私が父に呼ばれました。そして告げられたことが、湯元舘が倒産するということでした。それからというもの、毎晩毎晩家族が顔を合わせる度に泣きました。泣いて,泣いて,泣いて、涙が枯れるほど泣きました。結果的には、翌年に万博があるということで、首の皮1枚繋がりましたが、それから7年間に合計4回経営危機がありました。
詳しくは時間がありませんので省略をしますが、強烈な記憶にのこりましたエピソードを2つだけお話ししたいと思います。興味のある方はホームペ−ジに載せていますのでご覧下さい。ある年の12月31日 大晦日の紅白歌合戦を見ていた時の事です。フロントから両替をして欲しいという電話がありました。
事務所に行き、金庫を見たら何と千円札が2枚しかないのです。物価は違いますが今年は正月の釣銭を200万円準備しました。当時でも最低20万円は必要だったと思うのですが、それも無かったのです。元旦の朝はお客様からお勘定を頂戴し、近くの牛乳屋さんをたたき起こし両替してもらい、釣銭をお渡ししました。
また、ある日父から「了一緒に来い」と言って連れて行かれました。高利貸しのところでした。それもお金を借りに行くのではなく、借りたお金が返せないので前払いの利息だけ持って、期限の延長をお願いに行くところだったのです。利息を聞きますと、50日で1割でした。 行きますと、高利貸しのおっさんが「ボン あんたも もう分る年やと思うけど、わしのところに来るようなやつは20軒のうち19軒潰れる。せやけど、わしとこが無かったら残りの1軒も潰れるんや。わしがやってるのは一種の社会奉仕みたいなもんや。あんたもがんばって、その1軒になり〜」とすごくやさしく言われました。高利貸しというのは、「世間で言うほど悪い人とちゃうなあ〜。やさしい人もいるんや」と感激をしました。ところが帰り際に高利貸しのおっさんが「大将!」と言って親父を呼び止めました。フッと振り返ると 「これが最後やで!」と言いました。その時の目がぞっとするほど冷たい目をしていました。 これが高利貸しの本性やと思いました。帰ってそのことを父に話すと、父も同じように感じたようでした。どこでどう金を工面してきたかわかりませんが、それが最後で高利貸しのお金は返しました。
 4回の危機は私が18才から25才という多感な時期でした。私にとりましてその時の経験が現在の考え方に大きな影響を及ぼしています。お金は無かったのですが、時間だけはたっぷり(充分)ありました。「人生とは何やろ」「商売とはなんやろう」「どうしたら儲けられるんやろ」「社員に気持ちよく働いてもらうにはどうしたらいいんやろ」等々、非常に根源的な事を深く,深く考えました。いまだにその時の習性で、物事を本質から考える癖があります。
盛和塾に入れて頂いて勉強させて頂いていますが、盛和塾の中にどんどんビジネスを拡大した方と、そうでない方がいる事に気がつきました。同じ塾長の話を聞いていますが、それを実行した方としなかった方の差では無いかと思いました。塾長から「有意注意」ということを教えて頂きました。私は塾長の言葉を単に「なるほど」と聞くのではなく、旅館業に、又湯元舘に照らし合わせ、置き換えて、直ぐに実践するにはどうすれば良いかを考えながら聴きました。 本日は私が塾長の言葉をどうやって我社の経営に生かした事をご披露したいと思います。
 
最初は、何といっても【経営の原点12カ条】です。
 
【事業の目的、意義を明確にする】
塾長が「経営の原点12ケ条」の最初に示されているのがよくわかります。我社の社是は「忘己利他」です。雄琴温泉の隣町坂本にお生まれになった伝教大師最澄のお言葉です。 
塾長が「利他の心」を説かれているのを知った時は驚きました。そして、私が掲げた社是が間違いでなかったと思いました。4度の経営危機等により、私には金銭欲があまりありません。社員に何度も何度もうるさいほど言っていますのは、「利益は目的では無く、ご褒美だ」という事です。我社の目的は「お客様の感動や満足」であり、それを得るために一生懸命頑張り、創意工夫する事によって得られる「全社員の心と能力の向上」です。その結果お客様から「利益」というご褒美が頂けるということです。「忘己利他」の忘己とは、自分を"忘れる"という意味ではなく、"後にする"という意味だそうです。自分よりお客様の事を先に考える。同僚や会社や家族の事を先に考えるという事です。会社は利益よりもお客様の満足と社員の幸せを先に考えるということです。社員が我社で働く事によって幸せにならなければ我社の存在意義は無いと思っています。
 
【具体的な目標を立てる】
 目標は以前より決めてはいたのですが、それを実際のオペレーションまで落とし込む事は出来ていませんでした。5年前より、経営計画書を作成し、各部署から数値化した目標とそれを具現化する為の対策を提出させるようにしました。例えば、客室係はアンケートの点数、副支配人はフリーのお客様の獲得売上、保全係は水道光熱費の削減等々です。 あるナイトラウンジの女の子は「お客様におねだりをする1杯800円のドリンクを1日2杯以上」という目標をたて、笑顔でサービスをしています。毎月の達成度合いは経営会議にかけ、改善を繰り返しています。
 
【値決めは経営】
 この言葉によって、どれほど利益が違ってきたか分りません。旅行エージェントさんは少しでも安くして売りたいので、強烈な値引きを言ってきますが、営業や予約係は関係を損ねないように、のらりくらりとかわして、ほぼ定価を守ってくれています。この言葉を知らなかったらと思うと恐ろしい気がします。9年前旅館業にありがちな不透明な価格体系を止めました。お部屋とお料理によって自動的に料金が決まるようにしたのです。同じ宿泊料金でも「部屋はどうでも良いが、美味しいものを食べたい」というお客様もいらっしゃいますが、その逆に「料理はあまり気にしないが部屋はいいとこでないといやだ」というお客様もおられます。すこしでもお客様のご要望に近づきたいと思い改革しました。団体のお客様が激減し、個人のお客様が急速に増え、この合理的で明確な料金体系はお客様の支持を頂いています。
 
【勇気をもって事にあたる】
 湯元舘は15年以上前から「サービス料」を頂いていません。一律15%のサービス料という慣習は旅館業・ホテル業の料金の不透明さの象徴です。収入は少なくなりますが、お客様に説明のつかない料金を頂くのはイヤだったのです。正々堂々とした商売がしたいと思いサービス料を無くしたのですが、塾長のお言葉で自分の判断が間違ってなかったと確信しました。
 
【常に創造的な仕事を行なう】
 塾長のこの言葉を具現化する為に、社内に「品質向上委員会」と「経費削減委員会」を作りました。 各職場横断的な組織です。いろいろ試行錯誤は有りましたが、ここ数年は素晴らしい成果を挙げてくれています。 
 当館に「小梅ちゃん」という今は65才になったおばちゃんがいます。彼女は湯元舘大好き人間で、日頃から「もったいない」という事を良く言っていました。「経費削減委員会」を立ち上げた時、入ってもらいました。「あれがもったいない」「これが無駄だ」「こんなことをしてたらあかん」と、実に良く現場の無駄を把握していたのです。そして驚くべきことにその解決方法まで考えていたのです。私はその時つくづくと思いました。人材が居ないのでは無く、経営者が素晴らしい人材が居る事に気がついていないだけだと。塾長が言われている「掃除のおばちゃん」が我社にも居たのです。
 
【経営の原点12カ条】以外にも、たくさん役立てた言葉が有ります。
 
【動機善なりや 私心なかりしか】
 これは凄い言葉です。数年に1度大掛かりな設備投資をしなければいけない旅館業にとりまして、この言葉を知っているかどうかで存亡にかかわります。昨年、後輩が「税金を払わなくてはいけないようになりましたので、増築しようと思うのですが」と相談に来ました。私は塾長のこの言葉を借り、「それが動機なら止めた方がいい」と答えました。 
 採算性は当然の事としても、お客様にもっと満足して頂く為とか、社員が働き易いようにするとか、という動機でないとダメだと答えました。隣の旅館が増築したからとか、見得で行なった設備投資は次々に破綻しました。 設備投資だけでなく、全ての行動の動機は不純であってはならないと思います。
 
【心をベースとして経営する】
 「組織は人」「人はモチベーション」だと私は思っています。モチベーションの下がる事をするのは一番に社長です。当館の近くにあった旅館のことです。その社長はボーナスもロクロク払わないのに新車を乗りかえ、セーターを着て、ヒゲを伸ばし、ゴルフ三昧でした。 女将さんは高いべべに高そうなアクセサリー・・・倒産しましたが、私は当然だと思いました。私は3年落ちのクラウンに乗っています。近江商人のいう「分相応」だと思っています。家内には、自分より年上の社員や幹部社員に対し敬語を使うように厳しく言っています。社員は仕事の大切なパートナーであり、えらそぶるような事を決してしてはいけないと言っています。 公私の別に厳しい塾長の奥様のようになって欲しいと思っています。
 
【自らを追い込む】
 私は数年前より、資料にあります「社長の約束」を社員に示しています。どうしても我がままになりがちな自分に腹がたち、自分で縛る事にしました。又、売上・利益を自分で言い訳しない為にホームページで決算書を公開しています。「針谷さんとこは成績がいいからそんな事出来るんや」と同業者が言います。 私は逆だと思います。公開する事により、自分を追い込み、成績は上ると思っています。正しいかどうかは分りませんが、塾長の言われたことを私なりに実行しています。
 
【感謝の気持ちを持つ】
 賞与を支給した時社員が「社長有り難うございました」と言いますが、私はいつも「それは逆だ」と言います。賞与を支給出来るという事は、経営者にとってテストで最低限の点数が取れたことを意味していると思っています。一生懸命頑張って、それを可能にしてくれた社員に私が感謝しているのだと伝えます。ある時、お客様から頂きましたアンケートに「客室係のお姉さんから、"今日は賞与を頂きました。お客様のお陰です"と言われ驚いた。素晴らしい」というのが有りました。日頃から「お客様のお陰だ」と私が言っていた事を理解してくれていたのだと、本当に嬉しく思いました。
 
【ガラス張りで経営をする】
 十数年前より我社の実績・月次決算は毎月の社内報で全社員に知らせています。年次決算は分り易くする為、お客様一人当たりの利益や、1日当たりの人件費といった形でも公開しています。これにより社員のコスト意識が非常に高まりました。ガラス張りで経営するという塾長の言葉を聞き、私のやってきた事が正しかったと確認でき、嬉しく思いました。
 
【大家族主義で経営する】
 塾長の言われる大家族主義を私流に解釈しています。社長は「母親の愛情」より「父親の愛情」で社員に接した方がよいと思っています。盲目的な母の愛ではなく、生活の基盤となる給料を保障し、優しさだけでなく、時には厳しくして成長を願い、いざという時頼りになる父親の愛情こそが必要なのだと思います。毎月の給料袋に入れている社長通信はもう14年目になりました。私の思いを伝えるツールです。8月31日の全社員研修・経営方針発表会では、最後に京セラを見習い、コンパをしています。昨年はおおいに盛り上がりました。 
【大善は非情に似たり】
 この言葉によって救われたのが、当館の椿調理長です。彼は私が度々塾長の事を話すものですから、ある日「社長がそんなにいう稲盛さんという人のテープを貸して欲しい」と言ってきました。 手始めに1巻から5巻まで貸しました。ところが、1ヶ月経っても返ってこないのです。 どうしたのかと聞くと、今やっと3巻まで行きました。・・・と言うのです。 何と彼は1巻を約50回聞き、完全に自分で納得してから2巻に進み、2巻も約50回聞き、今3巻を約30回聞いたとこだというのです。流石、調理の職人です。完全に自分のものとしないと、先には進まないのです。私も塾長のテープを全巻50回以上は聴いていますが、1〜10巻まで聴き、 又1〜10巻まで聴くというやり方でした。調理長の方法を聞き、この方が正しいと気づき、以来私も調理長の方法でテープを聞く事にしました。調理長は腕も良いのですが、何よりも部下をかわいがります。部下の成長を生き甲斐にしている素晴らしい男です。ある時、厳しさから立て続けに部下が2名辞めました。彼は部下を厳しく指導する事が果たして本当に良いことなのかと悩みました。そんな時、塾長のこの言葉を聞き、彼は救われたのです。
 
【先頭に立って指揮する・率先垂範する】
塾長のお話に「後ろに居て指揮するのが良いか、先頭に立つべきか迷ったが、私は先頭に立って指揮をすることにした」という一節があります。私もこの問題で悩んだ事が有り、結論が出ませんでした。塾長のお言葉で吹っ切れました。経営者が強い意志を持って、自らが範を示し、先頭に立って仕事をすることが大事なことだと思います。ウエストポイント陸軍士官学校では 「突撃」という命令を出す時は「フォロー・ミー」と言うそうです。「俺に続け」ということだと思います。経営者が一番危険な先頭に立って戦わないことには部下はついてこないという考えだと思います。 
 
【地味な努力を積み重ねる】
 二宮 尊徳翁の「積小為大」「小を積みて、大と為す」と同じ意味だと思います。私の大好きな言葉です。 経営というのはこの言葉以外にないと思っています。数年前、ある旅館経営者に、全社員が「廊下で落ちているゴミを拾う」「出会うお客様にキチンとご挨拶をする」「カメラを持っているお客様に"一緒に写真をお撮りしましょうか"とお声掛けをする」「ちょっと違うやりかたで工夫してみる」・・・こういう努力が大切なのだと言いました。そしたら、その旅館経営者は「針谷さん、そんなことしてお客様は増えるのですか?」と言うのです。あたりまえのことですが、増えるわけはありません。しかしそれが、積み重なれば確実にお客様が増えます。我社は現在230名の社員が居ます。6割の出勤として、一人が1日3個ずつお客様の為になること、会社の為になること、同僚の為になることを積重ねれば、1年で15万個になります。それをやり抜く会社か、馬鹿にしてやらない会社かで勝負は決まるのだと思います。逆に言えばそれしか方法は無いのです。
 
【売上を最大に、経費を最小に】
 「例え、設備投資をして売上が増えても、経費の絶対額を減らせ」という塾長のお話を聞いてショックでした。増築で収容人員が増えたら当然人手もかかり、経費が増えるのが当然だと思っていました。それ以降の設備投資では、省力化、ランニングコストの低減の工夫を、随所に凝らしました。全国の旅館業で本格的には初めてという、バーコードによるローラーコンベアを導入し、料理の搬送をするようにしました。作業動線の改善や天ぷら油のローリー買い等、ありとあらゆる工夫をしました。そしてその結果おもしろいように利益率が向上しました。旅館業はGOP(Gross Operation Profit)という数字が利益に目安となっています。償却前営業利益率です。第1期・第2期設備投資後15%で旅館業としては合格ラインでは有りました。第3期設備投資後は18%台にのり、第4期設備投資後は20%台にまで向上しました。金融機関から高い評価を頂くようになりました。
 塾長に「経常利益率10%以上無ければ商売じゃない」と最初にお聞きした時は、旅館業では無理だと思いました。しかし、全国にたとえ1軒でも10%を超える旅館があれば、旅館業の特殊性ではなく、私の努力不足が原因であると思いました。 お蔭様で前年度経常利益率は8.4%になりました。本年度は半年経過したところで、14.2%です。シーズナリティを考えましても、最終的に念願の10%は超えると予想しています。まさに、塾長のおっしゃる「強烈な願望を心に抱く」です。
 その他、言えば切りの無いくらい、塾長の教えを経営に生かして来ました。盛和塾滋賀の宮崎先輩や夏原先輩、細川先輩、山川先生等を見ていていますと、塾長の言われている事を実践するのが正しい事は明らかです。
 私が影響を受けたのは、塾長の言葉だけでは有りません。私は塾長に最初お会いしたとき、「何といい顔をされているのだろう」と思いました。皆さんもきっとお感じになったと思います。ゴマをするのではありませんが、塾長は元々ハンサムです。でもそのような事で無く、まるで仏様のような澄んだお顔だという事です。リンカーンが「40才以上の顔に責任を持て」と言ったそうですが、塾長の澄んだお顔は「利他の心」から出ているのではないかと思います。私の人生の目標のひとつは塾長のような澄んだ上品な顔になることです。その為には塾長のいわれるように、我欲を捨て、そのすき間に入ってくる「利他の心」を増やすことだと思っています。 世の為、人の為、お客様の為、社員の為、地域の為、旅館業の為、家族の為、六波羅蜜で頑張って行きたいと思います。ご清聴有り難うございました。

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